英国発のオーディオブランド、Bowers & Wilkins(以下B&W)が2025年4月に満を持して発売した最新ヘッドホン「Px7 S3」。前モデルPx7 S2eから約1年半ぶりのメジャーアップデートとなる本機は、単なる小変更に留まらない完全な再設計が施された意欲作です。

この記事では、60年の歴史を持つオーディオの名門が世に送り出した渾身の一作を、あらゆる角度から徹底検証します。
ファーストインプレッション:薄さが生み出す優美なフォルム
手に取った瞬間に感じるのは、そのスリムさ。前モデルと並べると一目瞭然で、イヤーパッドを取り外したハウジング部分が驚くほど薄くなっています。この洗練されたフォルムは単に見た目の問題ではなく、装着感と携帯性を大きく向上させています。
インディゴ・ブルー、アンスラサイト・ブラック、キャンバス・ホワイトの3色展開されていますが、いずれもトレンドを先取りした洗練されたカラーリング。特にインディゴ・ブルーは、ブランドアンバサダーのデビッド・ベッカムが着用するモデルとしても注目を集めています。
デザインと装着感:長時間リスニングを想定した快適性の追求
Px7 S3の魅力は見た目だけではありません。新設計のヘッドバンドとアーム機構により、頭部へのフィット感が格段に向上。改良されたメモリーフォームを採用した贅沢なイヤーパッドが耳を優しく包み込み、長時間のリスニングでも疲れを感じさせません。
また、アーム形状は2013年発売の「P7」へのオマージュとなる流線型デザインを採用。B&Wのヘッドホン15年の歴史を感じさせるディテールにもこだわっています。
項目 | Px7 S3 | Px7 S2e (前モデル) |
---|---|---|
ハウジング厚 | 大幅に薄型化 | 標準的な厚み |
アーム形状 | 流線型(P7へのオマージュ) | 直線的 |
イヤーパッド | 改良メモリーフォーム | メモリーフォーム |
カラーバリエーション | インディゴ・ブルー<br>アンスラサイト・ブラック<br>キャンバス・ホワイト | ミッドナイト・ブルー<br>ブラック<br>グレー |
キャリングケース | コンパクト化 | 標準サイズ |
キャリングケースもコンパクトになり、日常の持ち歩きがより快適になりました。機能美と実用性を両立させた、真のプレミアムヘッドホンと呼ぶにふさわしい仕上がりです。
音響性能:フラッグシップに迫る卓越したサウンド
Px7 S3の最大の魅力は、その音響性能です。前モデルから飛躍的に向上し、上位モデルであるPx8に迫るパフォーマンスを実現しています。
新設計の40mmバイオセルロース・ドライブユニット
振動板の素材のみを前世代から継承し、シャーシ、ボイスコイル、サスペンション、マグネットを全て再設計。この包括的な見直しにより、以下の進化を遂げています:
- 歪みの低減:より正確なサウンド再現
- 解像度の向上:繊細なディテールまで描き出す表現力
- ダイナミクスの改善:迫力ある音の強弱表現
専用ディスクリートアンプによる駆動
B&Wのオーバーイヤーヘッドホンとして初めて、専用のディスクリートアンプを採用。この革新により:
- サウンドスケールの拡大:より広がりのある音場表現
- エネルギー感の向上:生き生きとしたパワフルなサウンド
その結果、Px7 S3は単に正確で精密なだけでなく、エモーショナルで感動的なリスニング体験を提供します。
最新コーデック対応によるロスレス再生
aptX™ Adaptive 96 kHz / 24 bitワイヤレス技術と、Qualcommの最新技術であるaptX™ Losslessの両方をサポート。対応デバイスからは44.1 kHz / 24 bitの音源をワイヤレスでもロスレス伝送が可能になり、B&Wが追求する「True Sound」をワイヤレスでも完全な形で体験できるようになりました。
対応コーデック | 特徴 |
---|---|
SBC | 標準Bluetoothコーデック |
AAC | Apple製品との互換性 |
aptX | 高音質コーデック |
aptX HD | 高解像度オーディオ対応 |
aptX Adaptive | 状況に応じたビットレート最適化 |
aptX Lossless(新対応) | CDクオリティのロスレス再生 |
さらに、USB-C接続時には96 kHz / 24 bitのハイレゾ音質を実現。従来の3.5mmアナログ接続にも対応しており、どのような環境でも最高の音質を追求できます。
ノイズキャンセリング:静寂の中で音楽に没入する
Px7 S3は、B&W史上最も高性能なアクティブノイズキャンセリング(ANC)技術を搭載しています。その性能は単に外部ノイズを強力にカットするだけでなく、音楽性を損なわないよう絶妙なバランスを実現。
8つの高性能マイク構成
前モデルの6マイクから8マイクへと増強され、より精密なノイズコントロールを実現:
- 2つのマイク:各ドライブユニットの出力を測定
- 4つのマイク:イヤーカップ前後に配置され環境ノイズをモニター
- 2つのマイク:通話時の音声明瞭度向上
これらのマイクは位置と角度が緻密に計算され、ノイズの多い環境下でも高いパフォーマンスを維持します。
ノイズキャンセリング機能 | Px7 S3 | Px7 S2e |
---|---|---|
マイク数 | 8基 | 6基 |
ノイズキャンセル効果 | より強力 | 標準 |
環境適応性 | 高精度 | 標準 |
パッシブノイズ遮断 | 改良構造により向上 | 標準 |
また、通話時には最新の音声処理テクノロジー「ADI Pure Voice」により、クリアな音声品質を実現。オフィスでの会議やカフェでの通話も、相手にクリアに伝わります。
バッテリーと機能性:実用的な長時間駆動
Px7 S3は、ノイズキャンセリングをオンにした状態でも30時間のバッテリー駆動を実現。わずか15分の充電で7時間の再生が可能な急速充電にも対応し、急いでいるときでも安心です。
直感的な操作性
物理ボタンを各イヤーカップに配置し、アプリを開かなくても基本操作が可能。ボタンの形状を変更し触感による識別がしやすくなったほか、電源ボタンを左イヤーカップに移動するなど、レイアウトを見直すことでより直感的な操作を実現しています。
Bowers & Wilkins Musicアプリの進化
専用アプリ「Bowers & Wilkins Music」では、以下の機能が利用可能:
- ノイズキャンセリングとアンビエント・パススルーの切り替え
- バッテリー残量確認
- 装着センサーの感度設定
- クイックアクション・ボタンのカスタマイズ
- 新機能:5バンドイコライザーによる音質調整
- True SoundモードでのEQバイパス
さらに、アプリからAmazon MusicやQobuzなどのハイレゾ音楽ストリーミングサービスに直接アクセスできるなど、ユーザー体験が向上しています。
将来のアップデートにより提供予定の機能
Px7 S3は購入後も価値が高まる設計になっています。2025年下半期には以下の機能が追加される予定です:
True Immersion空間オーディオ
B&Wのエンジニアが開発した独自の空間オーディオ処理技術により、通常のステレオ音源でもリアルで自然な立体感を体験できます。B&Wのフィロソフィーである「True Sound」を損なわない、自然でありながら没入感のある音場再現を実現します。
Bluetooth® LE Audio対応
B&W初のBluetooth® LE Audio対応ヘッドホンとして、以下の先進機能をサポート予定:
- Auracast™機能:複数の対応ヘッドホンへの同時音声送信
- 高音質コーデックLC3:従来のBluetoothオーディオよりも高音質・低遅延
価格と持続可能性:長く使い続けられる設計
Px7 S3の価格はオープンプライスですが、市場想定価格は税込68,200円前後。高額ではありますが、その音質と機能性、そして以下の持続可能性を考慮すると、長期的な投資価値は高いと言えるでしょう。
交換可能なパーツ
B&Wは長期使用を想定し、Px7 S3のイヤーパッドとヘッドバンドを交換可能に設計。経年劣化しやすい部分を新品に交換できることで、長く愛用することができます。
価格比較 | Px7 S3 | 競合他社同クラス |
---|---|---|
市場想定価格 | 税込68,200円前後 | 50,000円〜80,000円 |
交換パーツ | イヤーパッド・ヘッドバンド対応 | メーカーにより異なる |
アップデート | 空間オーディオ・LE Audio予定 | メーカーにより異なる |
サウンド印象:生演奏の臨場感を再現する驚異的な表現力
実際に様々な音源でPx7 S3を試聴した印象をジャンル別にお伝えします。
クラシック音楽
オーケストラの広大な音場感と各楽器の定位が見事に再現されています。特に弦楽器のきらびやかな高音域と、ティンパニーの低音の響きが絶妙なバランスで表現され、まるでコンサートホールにいるかのような臨場感を味わえます。
ジャズ
ベースの粒立ちの良さとドラムのダイナミックレンジの広さが印象的。特にブラシワークのような繊細な音の表現も鮮明で、演奏者の息遣いまで感じられるような緻密さは、このクラスのワイヤレスヘッドホンでは他に類を見ません。
ロック・ポップス
力強い低域と伸びやかな高域のバランスが絶妙で、ボーカルの存在感が際立ちます。アンプドライブによって獲得したエネルギー感は、特にロックのような躍動感のある音楽で真価を発揮。音楽の興奮をダイレクトに感じられる表現力は圧巻です。
電子音楽
電子音の質感や音場の広がり、細かなビートの刻みが驚くほど明瞭。特に低音域の解像度と量感のバランスが見事で、重低音も決して濁ることなく、引き締まった音で表現されています。
Px7 S2eからのアップグレードポイント
前モデル「Px7 S2e」からのアップグレードを検討している方のために、主な進化ポイントをまとめました。
進化点 | Px7 S3の特徴 |
---|---|
デザイン | より薄型でスタイリッシュなハウジング |
装着感 | 改良されたヘッドバンドとイヤーパッドによる快適性向上 |
サウンド | 新設計ドライバーとアンプによる音質向上 |
低音域 | より深みのある低音表現 |
高音域 | より豊かなディテール表現 |
解像度 | 全帯域での明瞭度向上 |
ノイズキャンセリング | 8マイク構成による効果向上 |
通話品質 | ADI Pure Voiceによる音声明瞭度向上 |
コーデック | aptX Lossless対応追加 |
アプリ機能 | 5バンドEQの追加 |
将来性 | 空間オーディオとLE Audio対応予定 |
まとめ:真のハイエンドワイヤレスヘッドホンの完成形
Bowers & Wilkins Px7 S3は、単なるワイヤレスヘッドホンの枠を超え、有線ヘッドホンに匹敵する音質と使い勝手を両立させた傑作と言えるでしょう。約60年にわたる音響技術の研究開発の粋を集めた本機は、音楽を愛する全ての人に新たなリスニング体験をもたらします。
その薄型化されたエレガントなデザイン、長時間のリスニングでも疲れない快適な装着感、そして何より、アーティストの意図を忠実に再現する「True Sound」の哲学に貫かれた音響性能は、このクラスのヘッドホンにおける新たな基準となるでしょう。
高額ながらも、その性能と将来性を考えれば十分な価値があります。音楽を心から愛する方、そして自分へのご褒美として本物のオーディオ体験を求める方には、ぜひおすすめしたい一品です。
Bowers & Wilkins Px7 S3は、2025年4月26日(土)より全国の家電量販店やオーディオ専門店、オンラインストアで発売中です。
製品仕様
項目 | 仕様 |
---|---|
型式 | 密閉型ダイナミック |
ドライバー | 40mm径バイオセルロース振動板 |
周波数特性 | 非公開 |
Bluetooth | 5.2 |
対応コーデック | SBC、AAC、aptX、aptX HD、aptX Adaptive、aptX Lossless |
ノイズキャンセリング | アクティブノイズキャンセリング(8マイク) |
バッテリー駆動時間 | 最大約30時間(ANC使用時) |
急速充電 | 15分充電で7時間再生 |
重量 | 非公開 |
カラー | アンスラサイト・ブラック、キャンバス・ホワイト、インディゴ・ブルー |
付属品 | キャリングケース、USB-Cケーブル、3.5mmオーディオケーブル |
市場想定価格 | 68,200円前後(税込) |
発売日 | 2025年4月26日 |
JANコード
- Px7 S3/AB(アンスラサイト・ブラック): 4951035079881
- Px7 S3/CW(キャンバス・ホワイト): 4951035079904
- Px7 S3/IB(インディゴ・ブルー): 4951035079898
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