【書評レビュー】「漫才過剰考察」|令和ロマン・高比良くるま著書が面白い!

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1. イントロダクション: M-1連覇とその快挙

令和ロマンが成し遂げたM-1グランプリ史上初の連覇は、漫才史に新たなページを刻みました。2023年、初のトップバッターでの優勝を果たし、翌年もその勢いを止めることなく栄冠を手にした彼らの快挙は、日本中の漫才ファンに衝撃を与えました。その中心にいるのが、ボケ担当の高比良くるまさん。

※この記事は本の詳しい内容には触れていませんので、ぜひ購入して読んでみてください。

彼が執筆した『漫才過剰考察』(辰巳出版、2024年)は、笑いに対する深い洞察と分析をまとめた一冊で、出版直後から大きな話題を呼びました。

書籍誕生の背景

この書籍は、元々Webマガジン「コレカラ」での連載が始まりでした。2023年7月からスタートした連載は、鋭い考察と独自の視点が評判を呼び、「もっと多くの人に届けたい」という声が高まりました。さらに、令和ロマンの連覇が決定的な追い風となり、連載を大幅に加筆・修正し、単行本として形を変えることに成功しました。

出版翌日には早くも3万部の増刷が決まり、累計発行部数は10万部を突破。これは、お笑いに興味を持つ人々だけでなく、ビジネスやクリエイティブ分野に携わる人々からも支持を得たことの表れです。

連覇を支えた「頭でっかち」の哲学

高比良さんは、書籍内で次のように語っています。

「現状M-1に向けて考えられるすべてのこと、現在地から分かる漫才の景色、誰よりも自分のために整理させてほしい。頭でっかちに考えてここまで来てしまった人間だ。感覚でやってるフリをする方がカッコつけだと思うんだ。」

この言葉からも分かる通り、高比良さんのアプローチは、「感覚」よりも「理論」を重視しています。漫才をどう構造化し、どう伝えるかを徹底的に言語化することで、彼は連覇という成果を勝ち取ったのです。

この書籍が持つ意義

『漫才過剰考察』は、単なる笑いの解説書ではありません。M-1という舞台を通じて「漫才」という表現方法の進化や、今後の可能性を探るものです。笑いの構造、観客の反応、時代背景など、多角的な視点から考察を加えた内容は、読む者にとって新しい発見の連続となるでしょう。

2. 『漫才過剰考察』とは?

書籍の概要と特徴

『漫才過剰考察』は、高比良くるまさんが連載していたWebマガジン「コレカラ」の記事をベースに、大幅な加筆・修正を加えた一冊です。漫才における技術的な側面や時代背景の影響、さらには「M-1」という舞台の特殊性を徹底的に分析した内容は、これまでにない「お笑い論」の新境地といえます。

本書には以下のようなテーマが扱われています。

  • M-1グランプリ2015年から2024年の予想までの全体的な流れ
  • 笑いの地域性や時代背景と漫才の進化
  • 漫才が観客に与える感情や心理的な影響
  • 昨今話題の「顔ファン論争」やSNS時代の笑い
  • 日本の漫才が海外進出を目指す未来の可能性

著者自身が「頭でっかち」と称するほど考え抜いた内容は、読者にとっても「漫才」という表現形式の深さと面白さを再発見させるものでした。


書籍内容のハイライト

1. M-1の歴史と進化

本書の核となるのは、M-1グランプリという漫才の頂点を決める舞台についての詳細な考察です。
例えば、2015年から2018年は「技術勝負の時代」として描かれ、設定や構成が緻密であればあるほど高評価を得やすかったといいます。一方、2019年以降は「多様な漫才が評価される時代」にシフト。観客が多様化する中で、笑いそのものの捉え方も変わっていったと指摘されています。

2. 漫才の「あるある」VS「ないない」

本書で新たに提唱された概念が、「あるある漫才」と「ないない漫才」の違いです。

  • 「あるある漫才」:観客が共感できる日常の出来事や感情を題材にしたもの。
  • 「ないない漫才」:一見現実離れした設定や状況を大胆に描き、観客を驚かせるもの。

高比良さんは、近年のM-1ではこの「ないない漫才」が多くの支持を集める傾向があると指摘し、その理由を時代背景や観客の嗜好に結びつけて説明しています。

3. 地域性と漫才

漫才は日本各地で育まれた伝統と文化が反映されています。高比良さんは、東西南北の笑いの違いに注目し、それぞれの特色を分析しました。たとえば、関西では「間」を重視した笑いが主流である一方、関東ではテンポ感や知識に基づく笑いが好まれるといいます。


表: M-1グランプリ時代別の特徴比較

時代特徴代表的な漫才師傾向
2015-2018技術重視、緻密な構成和牛、霜降り明星構成力の高さが求められた
2019-2023多様性、ジャンルの広がりマヂカルラブリー、錦鯉奇抜な設定や個性が評価
2024以降全く新しい形令和ロマン新しい形の融合や挑戦が注目

著者の視点の魅力

高比良さんが魅力的なのは、単にデータを並べるのではなく、時代背景や観客の感情を重ね合わせて考察する点です。彼の論点は、漫才そのものをただの「お笑い」に留めるのではなく、一種の「文化」として捉える視座を提供してくれます。

3. M-1と漫才の変遷を深掘り

M-1グランプリという舞台

M-1グランプリは、単なる漫才のコンテストではなく、芸人にとっての登竜門であり、漫才というジャンルの進化を後押しする巨大な装置です。2001年に始まり、2010年の一時終了と2015年の再開を経て、現在も多くのファンを魅了しています。

高比良くるまさんの『漫才過剰考察』では、M-1が持つ役割について以下のように分析されています。

  • 「技術の標準化」:高度な漫才が多くの観客に評価されることで、漫才の基本スキルが向上。
  • 「トレンドの形成」:その年の優勝者やファイナリストが、翌年以降の漫才の方向性を決定。
  • 「観客層の変化」:年々、SNSや動画配信サービスなどの影響で観客の層が多様化。

時代背景が漫才に与えた影響

1. 2015~2018年: 技術重視の時代

M-1が再開された2015年から2018年は、緻密な構成と洗練された技術が評価された時代です。和牛や霜降り明星といった優勝者たちは、設定やセリフ回しの完成度で観客を魅了しました。この時期の特徴として、高比良さんは以下の点を挙げています。

  • 明確なキャラクター設定:観客が感情移入しやすい工夫。
  • 伏線の多用:後半で笑いを回収する高度な技術。

2. 2019~2023年: 多様性の時代

2019年以降は、笑いの形が多様化した時代です。マヂカルラブリーや錦鯉といった個性派の漫才師が注目を集め、スタイルに縛られない自由な発想が評価されるようになりました。

高比良さんは、こうした流れを「観客のニーズの変化」と関連付けています。SNSの普及により、多くの人が独自の視点を持つようになり、従来の「正統派」以外のスタイルも受け入れられるようになったのです。

3. 2024年: 新たな挑戦の兆し

2024年のM-1では、笑いの国際化が議論されるようになりました。高比良さん自身も「日本の漫才が世界に通用する日が近い」と書籍内で述べています。彼が注目するのは、言語や文化を越えた「普遍的な笑い」の可能性です。


「あるある漫才」VS「ないない漫才」

高比良さんが提唱した「あるある漫才」と「ないない漫才」は、近年の漫才の進化を読み解く上で重要な視点です。

要素あるある漫才ないない漫才
テーマ日常生活や共感できる経験現実離れした奇抜な設定
笑いの源泉観客の「共感」観客の「驚き」
代表的な例和牛、ミルクボーイマヂカルラブリー、錦鯉
メリット幅広い層に受け入れられやすい記憶に残る個性的な印象
デメリット似た構成が多くなるとマンネリ化のリスクがある設定が過激すぎると共感を得にくい

観客層の変化とSNSの影響

現代の漫才に大きな影響を与えているのがSNSです。高比良さんは「観客が以前よりも演者の裏側や個性に注目するようになった」と指摘しています。これにより、演者のキャラクター性やSNSでの発信力が評価に直結するケースも増えてきました。

  • 顔ファン論争: 演技力だけでなく、見た目やキャラクター性も笑いの一部とされる現状。
  • SNSとの相性: ショート動画やツイートが話題となり、漫才自体の評価に影響を与える。

M-1が漫才に与える影響

M-1は、漫才の技術を底上げするだけでなく、観客と演者の関係性をも変えてきました。本書では、M-1が「漫才の進化装置」であることが繰り返し強調されています。

4. 全国漫才の視点: 地域性と受容性

地域ごとの笑いの違い

高比良くるまさんは『漫才過剰考察』で、漫才が日本各地で異なる形に発展してきた背景を詳しく分析しています。特に、東西南北の地域性による笑いの違いに着目し、それが演者のスタイルや観客の反応にどのような影響を与えているのかを掘り下げています。

1. 東西の違い

日本の漫才において最も大きな地域的な違いは、関東(東日本)と関西(西日本)の間に見られます。

要素関東(東日本)関西(西日本)
特徴テンポが速く、知識や文化を背景にした笑い「間(ま)」を重視し、会話を重ねた笑い
代表的な芸人サンドウィッチマン、ナイツ中川家、和牛
観客の反応理知的で冷静なリアクション感情的で熱狂的なリアクション

高比良さんは、この違いを「言葉の文化」と関連づけています。関西では、日常会話の中でのユーモアが重視されるため、自然な掛け合いが求められる一方で、関東では観客が「聞き手」として冷静にネタを受け止める傾向が強いといいます。

2. 南北の違い

南北でもまた異なる特徴が存在します。例えば、九州や沖縄地方では方言や独特の文化がネタに反映されることが多く、北日本では地域の厳しい自然環境に根ざした笑いが特徴的です。

地域特徴具体例
南(九州・沖縄)明るく陽気で自由な発想が特徴地元ネタや方言を交えた漫才
北(北海道・東北)淡々とした口調の中に深いユーモア自然や生活環境をテーマにした漫才

高比良さんは「こうした地域性は、全国大会であるM-1が日本各地の漫才を融合させる場としての意義を持つ」と述べています。


寄席と漫才

「寄席」は、日本のお笑い文化の基盤を支えてきた存在です。本書では、寄席と劇場の違い、さらにはそれぞれの観客層についても考察されています。

寄席で求められるもの

寄席は、漫才だけでなく、落語や手品なども披露される総合的な娯楽空間です。高比良さんは、寄席での漫才について以下のポイントを挙げています。

  1. 観客層の幅広さ
    寄席の観客は老若男女さまざまで、特定の年齢層に偏らないため、万人受けするネタが求められる。
  2. 即時性とわかりやすさ
    他の演目が続く中で短時間で観客を引き込む必要があり、シンプルで明快なネタが好まれる。
  3. 二大要素: 理解と発声
    高比良さんは、「観客が瞬時に理解できる内容」「明瞭で聞き取りやすい発声」の重要性を強調しています。

漫才が海外進出する可能性

高比良さんは、漫才が海外で受け入れられるための条件についても議論しています。特に、言葉や文化の壁を越えるためには以下の要素が必要だと述べています。

  1. ビジュアルコメディとの融合
    言葉の依存度を減らし、ジェスチャーや表情で笑いを引き出す手法。
  2. 翻訳可能なネタの選定
    普遍的なテーマ(家族、恋愛、日常生活など)を選び、異文化の観客にも伝わる内容を心掛ける。
  3. 日本特有の文化の発信
    寄席やM-1のスタイルを海外に紹介することで、独自の魅力を理解してもらう。

高比良さんは、「漫才が持つ本質的な笑いは、文化を越えて人々をつなぐ力がある」との考えを述べ、本書の最後に「日本の漫才が世界に羽ばたく時が来る」と期待を寄せています。


5. エンターテインメントとしての漫才

高比良くるまの哲学: 感覚よりも論理

『漫才過剰考察』の中で、特に際立つのが高比良くるまさんの「感覚よりも論理を重視する」というスタンスです。多くの漫才師が「感覚」や「経験」を頼りに笑いを作る中で、高比良さんは漫才を「構造化されたエンターテインメント」として捉えています。

たとえば、次のような視点が挙げられます。

  1. 漫才の設計図
    • 高比良さんは、漫才を作る際に「ストーリーの設計図」を重視します。ネタが観客の心にどのようなプロセスで届くのか、細部まで計算して構成を練ることを推奨しています。
    • 書籍内では、実際に令和ロマンがM-1で使用したネタを分析し、観客をどのタイミングで笑わせるべきかを具体的に解説しています。
  2. 笑いの普遍性と多様性
    • 高比良さんは、笑いには「普遍的な要素」と「多様な要素」の両方が必要だと説きます。普遍性があれば幅広い層に届き、多様性があれば記憶に残るという理論です。

SNS時代と「顔ファン論争」

近年、「顔ファン論争」がSNSを中心に話題となっています。これは、見た目やキャラクター性を評価するファンが増える一方で、「純粋にネタで評価されるべきだ」という意見との間で論争が巻き起こっている現象を指します。

高比良さんの視点

高比良さんは、この問題について次のように語っています。

「顔ファンも立派なファンだと思います。見た目やキャラクターで興味を持ってくれることが、漫才を見るきっかけになるなら、それは素晴らしいことです。ただし、最終的にはネタで笑わせられるかどうかが重要です。」

このコメントは、SNS時代の漫才がどのように進化すべきかを端的に表しています。観客が多様化する中で、芸人自身も従来の枠にとらわれない努力が求められているのです。


漫才がエンターテインメントとして成長する未来

高比良さんが本書で繰り返し主張するのは、漫才が「単なる笑いの提供」ではなく、「人々をつなぐエンターテインメント」として発展していく可能性です。

1. 未来の漫才に必要な要素

高比良さんが考える、これからの漫才に求められる3つの要素は以下の通りです。

  • 多様な文化背景の理解 観客の多様性に応じた笑いを生み出す力が必要。
  • 観客とのインタラクション 漫才師と観客が双方向の関係を築く新たなスタイル。
  • デジタル技術の活用 動画配信やバーチャル寄席など、新しい技術を駆使した笑いの提供。

2. 漫才の国際展開

本書の終盤では、漫才が海外でどのように受け入れられるかについての予想も語られています。特に、日本独自の「間」や「掛け合い」が、どれだけ海外の観客に通じるかが課題となるでしょう。しかし、高比良さんはその可能性に楽観的であり、「日本の漫才が新たな文化交流の架け橋になる日が来る」と結んでいます。


書籍を通じて伝わるメッセージ

『漫才過剰考察』は、単なるお笑い好きの読者だけでなく、広く「表現」や「エンターテインメント」に関心を持つ人々にも響く内容です。この書籍を通じて得られる主な示唆は以下の通りです。

  • 笑いは構造化できる 「感覚」で語られることが多い漫才も、論理的に分析し、再現可能な形に整理できることを教えてくれます。
  • 観客目線が成功の鍵 漫才師の世界だけでなく、観客の視点に立つことで初めて普遍的な笑いが生まれるという視点。
  • お笑いは文化であり、未来を担うもの お笑いが一つの文化として社会に影響を与える存在であることを再確認させてくれる内容です。

6. スペシャル対談と総評: 『漫才過剰考察』の魅力

霜降り明星・粗品とのスペシャル対談

『漫才過剰考察』のクライマックスの一つとして収録されているのが、霜降り明星・粗品さんとの2万字超えの対談です。この対談は、M-1の歴史や未来、漫才師としての哲学が語られるだけでなく、若手芸人と先駆者の交流から新たな発見が生まれる場となっています。

対談のテーマと内容

  1. M-1の意義
  2. 漫才師としての成長
  3. 未来への展望

書評: 『漫才過剰考察』の価値

『漫才過剰考察』は、漫才を単なる笑いの形式としてではなく、文化的・社会的な視点から捉え直した一冊です。そのため、読者に提供する価値は非常に多岐にわたります。

特に評価すべきポイント

  • 分析の深さ
    漫才の歴史、M-1の意義、地域性など、さまざまな観点から議論を展開しており、「お笑い好き」だけでなく、文化論や社会学的な関心を持つ読者にも響く内容です。
  • 著者の視点のユニークさ
    高比良さん独自の「論理的な漫才観」は、これまでの漫才本にはない視点を提供しています。
  • 読みやすさとエンタメ性
    重厚なテーマを扱いながらも、くるまさん特有のユーモアや軽妙な筆致によって、読み進めやすい構成となっています。

総評: 漫才の未来を照らす一冊

『漫才過剰考察』は、高比良くるまさん自身の挑戦と哲学が詰まった、唯一無二の作品です。M-1を連覇した若き天才が、日本の漫才が持つ可能性と課題を言語化し、未来への道筋を示しています。

芸人としてのキャリアだけでなく、漫才を愛するすべての人にとって価値ある一冊と言えるでしょう。

※この記事は本の詳しい内容には触れていませんので、ぜひ購入して読んでみてください。


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